(摂南大学)─その2:関数の連続性と極限の分配─

1999年摂南大学工学部の数学入試問題

f(x)を実数を係数とする多項式とする。実数aに対し、a_1 = aから以下帰納的にa_{n+1}=f(a_n)で数列\{a_n\}を定める。このとき、f(\alpha)=\alphaであることは、\lim_{n \to \infty}a_n=\alphaであるためのどのような条件か。下から選べ。
(1)必要十分条件である。
(2)必要条件だが十分条件ではない。
(3)十分条件だか必要条件ではない。
(4)必要条件でも十分条件でもない。

の続きである。今回は、必要性

\lim_{n \to \infty}a_n=\alphaならば、f(\alpha)=\alphaが成り立つ。

の証明を考えよう。なんとなく答案を書く受験生だと

\lim_{n \to \infty}a_n=\alphaのとき、\lim_{n \to \infty}a_{n+1}=\alphaである。
\lim_{n \to \infty}f(a_n)=f(\alpha)である。よって、\alpha=f(\alpha)である。

という感じに書いてしまうかもしれない。しかし、この答案は、第2行目の冒頭で、実は極限操作を関数の中身に移す変形

\lim_{n \to \infty}f(a_n)=f(\lim_{n \to \infty}a_n)

を用いている。この変形はどのような関数f(x)に対しても正しい変形ではない。

例えば、a_n=1-\frac{1}{n}と関数f(x)=x]を考えてみよう。\lim_{n \to \infty}a_n=1である。f(1)=1だ。しかし、[1-\frac{1}{n}=0がすべてのnについて成り立っているので、f(a_n)=0である。極限値をとっても0である。この例に対して上の極限の移行は正しくない。
次の図も参考になるかもしれない。

極限操作を関数の中身に移行してもよいのは、関数f(x)に連続性がある場合のみである。
つまり正しい答案を書くのであれば、次のように書くべきなのだ。

[正しい解答例1]
\lim_{n \to \infty}a_n=\alphaのとき、\lim_{n \to \infty}a_{n+1}=\alphaである。
実数係数の多項式f(x)は連続なので、
\lim_{n \to \infty}f(a_n)=f(\lim_{n \to \infty}a_n)=f(\alpha)である。
よって、\alpha=f(\alpha)である。

Z会の『チェック&リピート数学III・C』も旺文社や聖文社の解答例にも上のような答案が書いてある。もちろんこれで全く正しい。理系学部受験生でも関数の連続性と極限操作の移行にまで注意が向いている人は少ないと思われるし、教科書でも余り丁寧に説明されない箇所であるから、繰り返し言及して意識してもらうことは大切だと思う。

しかし、この問題についている「f(x)を実数係数の多項式とする。」という条件をもう少し好意的に読み取る回答がどこにもないのは少し嘆かわしいといっては言いすぎだろうか。もし出題する側が、上の[解答例1]のように解答して欲しいのなら、多項式などとせずに「連続関数f(x)」としたのではないだろうか。あえて「連続」という言葉を問題文に入れないようにした目くらましなのだろうか。

たぶん次のような解答例を想定して出題したのではないかと推測している。

[正しい解答例2]
f(x)は実数を係数とする多項式であるから、
f(x)=c_mx^m+c_{m-1}x^{m-1}+ \cdots +c_1x+c_0とおくことができる。ここでc_0,c_1, \cdots ,c_{m-1},c_mnによらない実数である。
いま、\lim_{n \to \infty}a_n=\alphaであるから、
\lim_{n \to \infty}f(a_n)
=\lim_{n \to \infty}(c_m(a_n)^m+c_{m-1}(a_n)^{m-1}+ \cdots +c_1(a_n)+c_0)
=c_m\alpha^m+c_{m-1}\alpha^{m-1}+ \cdots +c_1\alpha+c_0=f(\alpha)
が成り立つ。
また、\lim_{n \to \infty}a_n=\alphaのとき、\lim_{n \to \infty}a_{n+1}=\alphaである。
よって\alpha=f(\alpha)である。

この解答例では、連続性を用いた極限操作の移行の代わりに、極限操作の分配を使っている。

2つの数列\{p_n\},\{q_n\}が,それぞれp,qに収束しているとき、
\lim_{n \to \infty}(p_n+q_n)=p+q
\lim_{n \to \infty}p_nq_n=pq
が成り立つ。

これを使えば、\lim_{n \to \infty}a_n=\alphaのとき、\lim_{n \to \infty}(a_n)^m=\alpha^mであることや、例えば\lim_{n \to \infty}(a_n)^2+a_n=\lim_{n \to \infty}(a_n)^2+\lim_{n \to \infty}a_n=\alpha^2+\alphaであることなどが正当化されるのである。

関数の連続性という概念は高校数学ではあまり詳しく扱わない。せいぜい

関数f(x)x=aで連続であるとは、\lim_{x \to a+0}f(x)\lim_{x \to a-0}f(x)が存在して,ともにf(a)に等しいときである。

という定義と、いくつかの例(ex.不連続な関数の典型例としてガウス記号)を説明する程度だろう。中間値の定理にも関数の連続性が効いているのだが、使い方をマスターさせるので精一杯ではなかろうか。

それに対して、極限の分配は必ず扱う。もちろん、各項の収束性を述べないまま極限操作を分配する受験生が居るのだが。